4回目は初夏から旬の迎える穴子
タレの甘辛か、塩と柚子か── 穴子が見せる二つの顔
穴子というネタは、仕立て方ひとつでまるで異なる物語を紡ぐ。
甘辛いツメを纏えば、寿司は「重厚な和の響き」となり、熟成バローロの紅茶や土のニュアンスと響き合い、余韻は悠久の時間を帯びる。
一方で、藻塩と柚子で仕立てれば、寿司は「軽やかな余白」となり、甲州オレンジの柑橘香と微細なタンニンが寄り添い、鮮烈な和のニュアンスを描き出す。
── 甘辛の重奏か、柑橘の清涼か。
穴子の握りは、寿司という料理の中で“ペアリングの可能性”を最も多面的に示す存在である。
① ツメ仕立て × バローロ(熟成タイプ)
(イタリア・ピエモンテ州、ネッビオーロ主体)
◯ ペアリングのロジック
- ツメの甘辛い旨味には、熟成を経たバローロの土っぽさや紅茶のニュアンスが寄り添い、香りの複雑さを引き立てます。
- 落ち着いたタンニンと赤系果実の丸みが、タレの甘味・塩味・旨味を包み込み、握り全体を深みある余韻へと昇華させます。
- 穴子が持つ“江戸前の粋”に、イタリアの伝統的赤ワインが重なり、時間軸を超えた文化的対話が成立します。
② 塩仕立て × 甲州オレンジワイン
(日本・山梨県、甲州主体のスキンコンタクトワイン)
◯ ペアリングのロジック
- 柚子皮と藻塩の組み合わせに、オレンジワイン特有の柑橘系香とほろ苦さが見事に同調。
- 甲州の持つ和柑橘的ニュアンスが、穴子の淡白さに輪郭を与え、塩味と果皮の渋みが調和して“余白を楽しむ”マリアージュを生みます。
- 日本固有の品種と江戸前鮨の伝統が響き合う、地域性に根差したペアリングです。